宵越しの恋 川琴ゆい華(著)/橋本あおい(イラスト) 【小説感想】

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<登場人物>

 (攻)糀谷准平(こうじや じゅんぺい)…和菓子屋の外商。茶道教室の稽古も任されている。

 (受)逢坂深尋(おうさか みひろ)…洋菓子職人。転落事故で一時的に記憶喪失に。


<あらすじ>

 深尋は高校時代、罰ゲームで准平とキスをしたことがあり、深尋にとってはそれが嫌な思い出になっていました。
 その後は准平とかかわらずに大人になった深尋。ある日転落事故に遭い、気がつけば病院で一時的な記憶喪失になっていました。記憶はすぐに取り戻した深尋でしたが、そこへ現れたのが、ずっと会っていなかったはずの准平。准平は自分と深尋が恋人だと言い、引受人として深尋を連れて帰ろうとします。


<感想>

 職も恋人も失った直後に転落事故に遭った深尋、病院で目が覚めたときはたしかに記憶がないんですが、すぐにすべて思い出します。この一時的とはいえ深尋が記憶喪失になったことが、准平との複雑な関係を生み出していて、大きな事件は起こっていないはずなのにずっとハラハラしながら楽しく読めました。

 歩道橋の階段から落ちた深尋を助けてくれたのは、深尋の高校の同級生だった准平。准平とは高校卒業以来長いこと会っていなかったはずなのに、深尋の記憶がないと思っている准平は、深尋は自分の恋人であると告げて自分の部屋に連れて帰ろうとします。

 准平については嫌な思い出のある深尋。けれど人生のやり直しも兼ねて、深尋は記憶がないふりを続けながら准平についていきます。この、お互いに嘘をついているのだけれど深尋だけは准平の嘘に気づいている、という前提が大変おもしろかったです。どこでバレるんだろう、バレたらどうなっちゃうんだろうと考えるとページを捲る手が止まりませんでした。

 深尋と准平との暮らしは、おいしそうな和菓子に囲まれてほのぼのしていました。深尋の嘘がすべて露見してしまった後も、茶寮の縁側で交わされるふたりの会話が穏やかなものに感じられ、不思議な気持ちになりました。奇妙な形での再会だったとはいえ、大人の恋物語という感じがしてとてもいい余韻が残りました。

 橋本あおい先生の挿絵もすごくよかったです。和装に茶道に和菓子、「和」な雰囲気を存分に味わうことができました。絡みシーンもしっとり色っぽかったです。


<オススメ要素>

・記憶喪失から始まる嘘つき同士の恋。
・全体に流れる和な雰囲気。


<関連作品>

・電子書籍(お試し読みができます。)

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