雪の声が聞こえる 水原とほる(著)/ひなこ(イラスト) 【小説感想】

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<登場人物>

 (攻)英雅彦(はなぶさ まさひこ)…英の「お屋敷」の跡取り。

 (受)野沢幸(のざわ ゆき)…庭師の孫。


<あらすじ>

 都会から離れた雪深い田舎町で、英家の跡取りの雅彦と、屋敷の庭師の孫である幸は1つ違いで兄弟のように育ってきました。
 立場の違いから雅彦との間に溝を感じていた幸は、雅彦が東京の大学へと進学するのを機に距離を置こうとします。しかし、幸を自分のものにしておきたいという雅彦に無理矢理襲われてしまい……。


<感想>

 冬には雪に埋もれる田舎の村。外の世界に憧れる若者にとっては閉塞感を覚えそうな場所で、雅彦と1つ年下の幸は幼馴染として兄弟のように過ごしていました。しかしふたりの間には田舎ならではの明確な立場の違いがあり、幸はそれに引け目を感じているようです。

 幸はとても複雑な事情故に幼い頃から祖父とふたり暮らしで、かといってそれを必要以上に悲観することもないとてもいい子です。ただ、そんな環境を当たり前に諦めているというか、不憫なことに慣れすぎていて、よく考えずに何でも受け入れてしまいそうな危なっかしさが感じられます。

 そんな幸を自分のものにするために雅彦は幸を襲い、さらには周囲を丸め込んで東京に連れていってしまいました。雅彦が幸を好きすぎるあまり権力を駆使して暴走する様は典型的なヤンデレ攻に見えます。ですが、少し大人になって自分の行いを反省し、ヤンデレを卒業(?)するところまでいく展開は珍しいといいますか、むしろ新鮮に感じました。

 強引な雅彦に流されていた幸もこのままではいけないと自分の意思で雅彦のもとを逃げ出します。そのあとで今度は自ら雅彦に歩み寄っていくため、幸がただの流され受ではなく、意外と強い子だったのがわかりました。最終的には幸も雅彦を支えるとまで言えるようになってくれて、ふたりが対等な関係になれたのはとてもよかったです。

 ヤンデレと流されが成長して現実的な付き合いをはじめるまで、というところに妙にリアルさを感じられるお話でした。いわゆるメリバ的なドツボには嵌らず、そこから抜け出して明るい未来への希望を残してくれたので、私はとても良い余韻に浸れました。


<オススメ要素>

・ヤンデレ×不憫。


<関連作品>

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