月がきれいと言えなくて 水原とほる(著)/ひなこ(イラスト) 【小説感想】

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<登場人物>

 (攻)高村弘毅(たかむら こうき)…会社社長。31歳。

 (受)須賀明紀(すが あきのり)…高校の英語教師。28歳。


<あらすじ>

 高校教師の明紀は、恩師が生前住んでいた家の前で立ち尽くす男性・高村を見つけ、思わず声をかけます。高村は亡くなった祖父が残していた手紙を届けに来たと言い、その後明紀の恩師も同様に高村の祖父へ向けて手紙を残していたことが発覚。膨大な数の本の中に挟まれているという恩師の手紙を見つけようと、明紀は高村と協力して探し始めます。


<感想>

 封をし切手も貼ったのに、その手紙を投函しないまま故人となったふたりのおじいさん。そのうちの1通の行方を探す物語でした。とはいっても本のタイトルから手紙の内容は予想がつくため、メインとなるのは手紙を探しながら主人公が自分と向き合い、相手と距離を縮めていく過程だったと思います。

 明紀は高校の英語教師で、年上で落ち着いた雰囲気の高村と出会って惹かれていくわけですが、新たな一歩を踏み出すには明紀自身が向きあわなければいけない問題を抱えていました。

 明紀は自身が勤める学校の男子生徒に告白を受け、はっきりとした対応ができずにいます。手紙という今どきの子にしては古風な方法で告白してきた生徒の町田。成績も良いらしく真面目で大人しい子なのかと思いきや、青春期の青年らしく本人の制限も効かないほどの激情を持ち合わせていました。

 町田は途中やりすぎな面もあったもののどうにも憎めないキャラで、明紀がどうしてこうも扱いに困っているのかと疑問に感じていたら、それには明紀の過去が大きく関わっていたようです。

 回想の中で、明紀の昔の想い人との絡みが少しですが描写されています。明紀からしてみれば、年上の男に弄ばれてしまった忘れたい過去。それを町田は明紀に思い出させてしまったわけですね。

 しかも町田が突撃したことで明紀が高村と付き合うきっかけを作ってしまったという……本人が悪いとはいえきっと一生モノの後悔を背負ってしまった町田くん、彼にも将来いい出会いがあるよう祈らずにはいられませんでした。

 自分の忘れたい後悔を認めるって大変なことだと思います。私自身も心に突き刺さる場面がいくつもありましたが、その度にうまいこと救いの手を差し伸べてくれるのが、粕谷のおじいさんの言葉でした。まだすべてを理解するには私の人生では薄っぺら過ぎるのですが、心にとどめておきたい素敵な言葉が満載でした。

 大人だからこそ忘れたい過去があり、それと向き合ってまた未来へ進んでいく、大人がまたひとつ大人になる過程を見せてもらえたようなありがたいお話でした。


<オススメ要素>

・故人の手紙をめぐる恋模様。


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