匣男 剛しいら(著)/吉村正(イラスト) 【小説感想】

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<登場人物>

 (攻)葦原祐一郎(あしはら ゆういちろう)…風宮の幼い頃からの友人。8年間音信不通だったが、風宮の秘書として突然戻ってきた。

 (受)藤島風宮(ふじしま ふみや)…藤島造船の副社長。26歳。


<あらすじ>

 小さい頃から狭いところに閉じこもる癖のあった風宮。そんな風宮をいつでも見つけ、理解してくれたのは、風宮の父親の友人の息子である祐一郎だけでした。
 祐一郎は家庭の事情で8年間音信不通だったものの、26歳になった風宮の秘書としてある日突然現れます。上司である風宮に対し、命令し支配しようとする祐一郎。家族と上手くいかず、仕事の重圧もつらいばかりだった風宮にとって、祐一郎からの支配はむしろ心地よいものに感じられます。


<感想>

 ファンタジーの要素は欠片もない現代ものなのですが、とても不思議な雰囲気が癖になるお話でした。風宮の「狭いところにいると落ち着く」という性癖に、祐一郎からの支配に閉じ込められる、という感覚が絡み合い、なんとも奇妙な読後感を味わえました。乱歩作品を髣髴とさせるこの感じ、たまらなく好きです。先生があとがきでおっしゃっている「寓話」という言葉がとてもしっくりきました。

 旧財閥の跡取りで船舶会社の副社長である風宮。ですがその立場は自他共に認めるほど「お飾り」でしかありません。周囲からの重圧に萎縮し、息の詰まりそうな生活をしていた風宮のところに、唯一の理解者である祐一郎が現れます。祐一郎は家庭の事情で一度は風宮のもとを離れたものの、力をつけ風宮の秘書となって戻ってきました。気弱な風宮に上からな態度で言うことを聞かせますが、風宮はその支配が心地よい様子。

 デスクの下で蹲り、祐一郎の足を抱いていたり、全裸でスーツケースの中に入ってそれを引く祐一郎と外に出たり。祐一郎の方も、風宮がスーツケースの中にいるときに、第三者を交えて間接的に自分の本音を零します。

 肌色シーンでも、はじめのうちは風宮はベッドカバーに包まれた状態で、祐一郎と触れ合うのは最低限必要な部分だけです。けれどそうやって風宮がひとりで隠れていたのが、次第に肌を触れ合わせるようになり、最後にはふたりで、となるのが不思議ととても素敵に思えました。

 家族の確執や跡取り問題、変態的な性癖と支配、「匣男」というタイトル、挙げれば挙げるほどおどろおどろしい感じになってしまいますが、風宮と祐一郎の閉鎖的な関係性はとても綺麗なものに感じられました。誰の入る隙もないからでしょうか。互いに歪みつつもぴったりとはまっていることが、読んでいるこちらをたまらない気持ちにさせてくれます。

 ヤンデレという属性には収まりきらない、美しいほどの執着を見せていただけた珠玉の作品だと思います。剛しいら先生、素敵な作品をありがとうございました。


<オススメ要素>

・執着攻×閉所が好きな受。
・不思議な寓話。


<関連作品>

・電子書籍(お試し読みができます。)

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