<キャスト>
(攻)本川剛…興津和幸
(受)坂井圭一…阿部敦
<感想>
偽りの自分を武装する圭一と、圭一にやたら懐き距離を詰める機会をうかがっている剛。どこまでも素人な私でも難しそうな役どころだとわかるふたりの人物なのに、すごくリアルに感じさせてくれる圧巻の音声化でした。
ブックレットはキャラクター紹介、興津さんと阿部さんのお写真とコメント、インタビュー、原作の丸木先生からのコメントが収録されていました。興津さんも阿部さんも役づくりに苦労があったご様子。とても考えて演じられているのが伝わってきます。
小説原作なだけあって、物語は圭一のモノローグやナレーションを軸に進みます。ですので状況を説明する文章もむしろ全体の流れに溶け込んでいる感じで、違和感がありません。会話との切り替えもすごく自然で、ずっと聴きやすかったです。
以前の自分とは異なる自分を演じている者同士、追いつめられていく圭一とじわじわ近づいてくる剛、結末を知っていてもドキドキしました。支配される側には絶対になりたくないという圭一が剛に翻弄され次第に元の姿に戻されていく過程はすごく繊細で、聴くたびに新しい発見があります。ちょっとずつかわいらしさが加わってくる圭一がたまりません。
さらにもっさり攻なのに実は……な剛が従順な犬と見せかけて牙をチラつかせ、形勢逆転に持ち込んでいく様は本当にお見事としかいいようがありません。喜んでしっぽをふっていたかと思えば、ここぞという場面ではグイグイ攻めてくる剛、一瞬も聞き逃すまいと何度も息を呑んでいました。中学時代の吉住から現在の剛へと場面が変わる瞬間は特に気に入っています。
私にとっては小説のなかのファンタジーなキャラクターだった圭一と剛が、本当にいそうに感じられてゾクゾクしました。原作に漂う不気味さ、怖さが丁寧に再現されたすごいCDでした。
<関連作品>
・原作小説 (感想記事はこちらです)
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