キス 一穂ミチ(著)/yoco(イラスト) 【小説感想】

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<登場人物>

 (攻)雑賀明渡(さいが あきと)…地元の大きな地ビール会社「雑賀ビール」の息子。

 (受)蛇抜苑(じゃぬけ その)…家庭環境が悪く、家にいたくない。父親が「雑賀ビール」の工場で働いている。


<あらすじ>

 家では両親が喧嘩、小学校では名字をからかわれ、苑は不自由な毎日を送っていました。けれど、明渡だけはひとりでいる苑に話しかけ、夜になるとこっそり家を訪ねてきます。
 活発で友人も多い明渡。自分とは正反対なのにどうして一緒にいるのかわからない苑。
 町のお祭りの日、ふたりに転機が訪れます。


<感想>

 一穂ミチ先生の本は、いつもゆっくりじっくり焦らずに読めるものが多いイメージでした。今回もそのつもりで読み始めましたら、途中でやめられなかった上に(しかも本が分厚い)、心にぐっさりきすぎて眠れなくなってしまいました。

 お話もキャラクターも大好きになりました。でも、好きは好きでも衝撃が凄すぎたといいますか……。とにかく「寂しい」「やりきれない」という感覚が抜けません。もしほんの短いものでもいいのでふたりの続きが読める機会があったら、まっさきに飛びつくと思います(とりあえずペーパーと先生のnoteには飛びついてきました)。

 子供のときから大人になっても苑を手放さなかった明渡。この明渡の強引さがとても情熱的で、ようやく苑がふり向いてくれたときは本当に感激しました。

 けれど、この時点でまだ物語の5分の3くらいなのです。ふたりはとっても幸せそうなのに、不自然に多く残っているページ数……。このあとに中編がある気配もなく、ということは苑と明渡にはきっと何かが起きてしまう……、という悪い予感で読んでいるこちらはずっとハラハラしていました。

(ここから一穂先生の他の作品の話もします。そちらのネタバレになる箇所もあると思いますので、未読の方、苦手な方はごめんなさい)

 明渡の変化がわかったとき、一穂先生の2010年の作品『街の灯ひとつ』の主役・片喰くんのことを思い出しました。彼もとても大切なものを失っていて、それがもう戻らないことを本人が一番わかっている印象でした。片喰くんと明渡ではいろんなものが全然違って、同じにしてはいけないのは十分承知しているのですが、なんとなく、明渡ももう絶対に取り戻せないのをわかっていて、それでも戻せないかと言ったように思えてしまいました。

 そんなことをひとりで勝手に考えてしまったので、切なくて寂しくてやりきれない気持ちがどうにも消えません。明渡が最後の方で繰り返しつかった言葉が、過去と今が別のものであると感じられて切なかったです。明渡のあの情熱的な行動の数々に魅せられた一読者としては、それを信じたかったというのが正直な感想です。

 ふたりはこれからゆっくりと関係を深めていくんだろうと思います。苑と明渡だったら、もしかしたらそれがふたりの本来の恋心のあり方だったのかもしれません。ふたりにとっては良いラストに思えました。


<関連作品>

・電子書籍
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・続篇
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コメント

  1. 空き瓶  より:
    2017/12/22(01:27)コメントさま

    コメントありがとうございました!

    まだブログを始めたばかりなので、うまく返信できていなかったり何か失礼がありましたら申し訳ありません。
    初めてコメントいただけてとても喜んでいます。

    仰るとおりで、本当に、よかったけれど、切なかったですよね。
    私も重くなった気持ちを引きずったままです。
    粗筋で重さが量れたら便利なのに……と時々思います。
    でも、どんなお話でも心にずしりとくるときはくるんですよね。すごくわかります……。
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